
11月のはじめ、僕はコペンハーゲンに滞在していた。
はじめて訪れたコペンハーゲンは荒涼とした空港から程近い港町だった。人口も541万人しかなく、また国土も日本の十分の一でしかない。が、この小国は、A・ヤコブセン、H・ベグナー、F・ハンセンと偉大なデザイナーを輩出し、ロイヤルコペンハーゲン、バング&オルフセン、カールスバーグ、レゴ等、世界的に有名な企業が少なくない。
SASロイヤルホテルというアンリ・ヤコブセンがデザインしたホテルに泊まっていたので、そのデザインの良さには感嘆した。華美でなく、洗練というわけではなく、ほっとするようなセンスの良さである。
またデンマークは、かの森鴎外が紹介した『即興詩人』の著者アンデルセンHans Christian Andersenの祖国である。彼は眠ったまま埋められた男の悲話を聞いて恐ろしくなり、以来枕元に自分は死んでいないとメモを置いて眠るほど素朴な男だった。
アンデルセンの逸話は、彼の夢見がちな性格を現していた。11月の頭にマイナス6℃にもなる土地の部屋では、誰もがシンプルな生活を嗜好するのかもしれない。素朴でピュアな空気がコペンハーゲンには満ちていた。

街を歩いても、パリやロンドンのようなモードはない。一般的なデザイン…特にインテリアの趣味は良いのに、服装は良くも悪くも野暮である。質実のバランスに優れているという言い方できるかもしれない。その趣味の良さにはナチュラルなものであり、マスコミの影響というものではなく、教育の賜物のように思う。折りしも日本では政府主導で教育の話が盛んであるけれども、本来の教育は政府主導ではなく、人々の生活から育まれ、自由な文化教育から生まれるものだろう。知識の正誤に拘泥し、教育委員会が跋扈する日本の教育のなかから、素晴らしいデザイナーなど生まれない。勿論、素晴らしいデザイナーは日本にもいる。しかし彼らは、蓋し日本の自由なサブ・カルチャ=マスコミが育んだ者たちだ。
もはや商業主義的な色彩の強くなってきた日本のサブ・カルチャばかりに頼るのではなく、本来のカルチャを取り戻すために、これからは政府の教育への関与など最小限にするべきだと思う。
何を履修しようがしまいが関係ない。読むこと、書くこと、そして最小限の計算だけができるようにすることが公の教育の基本であり、その他は個々の自由に(つまり学校単位の)委譲するべきだ。
早晩教育において、受験機械=官僚機械を破壊し、もっと自由な個人が醸成される社会になって欲しいと願う。
コペンハーゲンから眺める東京、あるいは日本
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